Posted byよなご矯正歯科 院長 永瀬志保
矯正治療は治療計画を立てる前に、必ず「精密検査」と呼ばれる検査を行います。精密検査で実施するのが、レントゲンをはじめ口腔内やお顔の写真撮影、そして今回お話しする歯の型取りです。歯の型取りは歯科用語で、印象採得といいます。
この印象採得ですが、近年新しい型取り方法が普及していることをご存知でしょうか？
今回は従来の印象と、スキャナーを使用した新しい光学印象について、どのような違いがあるのかをお話ししていきたいと思います。
従来の印象
虫歯の治療で被せ物を作る際、ピンク色や緑色の粘土のようなもので歯型をとった経験がある方も多いのではないでしょうか？この粘土のような「アルジネート印象材」を用いるのが、従来の印象です。
矯正治療でも古くから使用されており、診断前や装置の作製時など多くの場面で重要な役割を担ってきました。また、従来の印象でマウスピース型カスタムメイド矯正装置を作製する場合には、精度を上げるためにシリコンを併用する「シリコン印象」が必要となります。
従来の印象の特徴
●固まるまでに時間がかかる
従来の印象は、専用のトレーに盛った材料を柔らかい状態で歯に押し付けますが、しっかりと固まるまで3〜5分トレーを外すことができません。
固まるまでの時間は常にお口を開けた状態になるため、お口を開けているのが辛い顎関節症の方や嘔吐反射の強い方などにとっては、負担が大きくなってしまいます。
●粘膜までしっかりと取れる
お口の中の粘膜まで型を取れるという点は、従来の印象における大きなメリットです。頬や唇の粘膜、歯ぐきの境目までしっかりと取ることができるため、入れ歯などの作製には非常に向いています。
●変形のリスクがある
歯型を取り終えた後は、気泡が入らないように石膏を流し入れ、固まった石膏を模型として使用します。しかし、アルジネート印象材や石膏は、その特性上どうしても収縮や膨張など変形のリスクが伴ってしまうため、精度が落ちてしまうことがあるのです。
●嘔吐反射の強い方には不向き
歯医者さんや病院で器具が上顎の奥に触れた際、まるで嘔吐するときのように気持ち悪くなったという経験はありませんか？この反射を嘔吐反射と言い、強弱はあるものの誰しもがもつ体の作用です。
アルジネート印象はトレーが上顎に触れ、さらに材料が奥にも流れやすいことから、嘔吐反射の強い方にとっては辛い処置となってしまいます。
従来の印象の流れ
１. トレーの試適
歯型を取るには、まずトレーのサイズ選びが必要です。お口の大きさや歯並びによっても最適なトレーが異なるため、実際に歯に合わせながら細部までしっかりと取れるサイズを選びます。
２. 歯型を取る
アルジネートを選んだトレーに盛って歯型を取っていきますが、上下同時に取ることはできないため、全体の歯型が必要な場合上と下の2回に分けて行います。
３. 咬み合わせを取る
咬み合わせを取るのに使うのはアルジネートではなく、専用のワックスです。歯型取りにおいては、この咬み合わせを取ることも非常に重要であるため、リラックスしながら普段通りの位置でワックスを噛みます。
光学印象（口腔内スキャナー）
近年、新しい歯型取りとして普及しているのが、口腔内スキャナーによる光学印象です。
その名の通り光を使って歯型を取る方法で、スキャンしたデータがリアルタイムで画面上に3Dで表示される画期的なシステムを利用しています。
光学印象で使用する口腔内スキャナーは、レントゲン装置のように放射線が発生しませんので、お子さまや妊娠中の方でも安心して歯型を取ることができますよ。
光学印象の特徴
●型取りの時間が短い
光学印象では、口腔内スキャナー以外の道具を使用しません。トレーの試適や、材料を練って盛る工程、固まるまでの待機時間などもありませんので、そのぶん型取り時間の短縮に繋がります。
●気持ち悪くなりにくい
ステック状のスキャナーを使用する光学印象は、気持ち悪くなりにくいのが特徴です。万が一気持ち悪くなってもすぐに口からスキャナーを取り出せるため、嘔吐反射の強い方でも比較的楽に歯型を取ることができます。
また、従来の印象のように、口周りに材料が付着したり、歯と歯の間に材料が詰まることもありませんので、型取り後の不快感もほとんど生じません。
●型が取りにくいこともある
スキャンする歯によっては、細部までの型が取りにくいこともあります。例えば、大きく傾いた歯や親知らずなどは、粘膜を押し広げてスキャンする必要があるため、歯並びによっては一時的に不快感が出ることもあります。
●精密な歯型がとれる
材料を使用しない光学印象では、歯型が変形してしまうという心配がありません。そのため、一つ一つの歯の形や噛み合わせなどのデータを正確に取ることができ、それを基により精密な矯正治療を提供することができるのです。
●治療期間の短縮
従来の型取り方法では「マウスピース型カスタムメイド矯正装置」などを作製する際、シリコンで取った歯型をそのまま海外や国内のラボへ郵送する必要がありました。光学印象は、型を直接コンピューターに取り込めるデジタル技術を活かした歯型取りです。このことから、取り込んだデータをオンラインで直接ラボに送ることができるため、郵送の手間がない分従来のやり方に比べると治療期間を短縮することができます。
光学印象の流れ
１. 歯並びをスキャンする
光学印象は、歯をなぞるようにスキャナーを動かしていき、歯の表面と裏側、噛む面を順番に型を取っていきます。親知らずやねじれた歯がなければ、5分もかからず完了します。
２. 噛み合わせを取る
噛み合わせも材料を使用せず、スキャナーのみで取っていきます。通常時の噛み合わせを正確に取るため、座位のまま噛んだ状態で、左右に分けて噛み合わせをスキャンしたら終了です。
まとめ
当院では口腔内スキャナーを使用し、快適かつ精密なこの光学印象を行なっています。
矯正治療において歯型取りは避けて通れない道ではありますが、従来の歯型取りが苦手な方でも安心して治療を始めることができるため、まずはお気軽にご相談ください。